やってて、よかった
深く静かな、藍
しかし、伝統に対する責任が、原山さんを押し止めた。
代々、連綿と受け継がれてきた「藍染」の技を、自分の代で絶やしてしまって、本当にいいのか?それで、お客様に顔向けできるのか?
そうした想いに突き動かされて、代表として、がむしゃらに、数年を駆け抜けた。
そしていつしか、経営という大きな壁を乗り越えていた。
原山さんは染め場に立つ。経営に対する煩いを克服し、職人として、純粋無垢な集中の世界に、身を浸す。
藍甕を覗くと、そこにあるのは、風ひとつない夜の湖面のような、深くて静かな、藍。三分の一に、「藍の華」を咲かせている。
原山さんは、その藍の小さな「声」に耳をすましながら、幾度も幾度も、糸を浸ける。
そうして完成した「藍染」の布を、喜んで求めるお客様の笑顔。―やってて、ほんとうに、よかった。
そう思える瞬間の、大きな大きな、しあわせ。