vol.2 「オノギ食品」小野木國一社長

「食」に挑んだ、会津人

「オノギ食品」小野木國一の物語り

震災から一年半が過ぎた。

沿岸部と比べると、直接的な惨害は少なかったものの、その反面、真綿で首を絞められるように、今なお、陰伏的な被害に苦しめられている。

そう、会津は、いまだ疲弊している。福島原発の、その爪痕。

しかし、そんな中でも、下を向かず、「食」に挑み続ける、ひとりの会津人がいる。

その人、質朴にして、凛。―「オノギ食品」小野木國一の、物語り。

会津人の萌芽

若木、真っ直ぐと

幼少期、小野木少年の父は露天商だった。

―露天商の息子やい、飴売りの息子やい

高学年になり、友人たちに、そう揶揄されて、貧乏人と金持ちのいることを、勃然と知った。

そして、小野木少年は、若々しく奮い立つ。いつか、人の上に立つ人間になってやろう。そう、決めた。

悲壮感は微塵もなかった。只々、純粋な負けん気があるばかりだった。

「我、だよな」小野木社長は、そう振り返る。

しかし、それは、賀すべきひとつの、萌芽だった。会津人の気骨の、豊かな芽生えだった。

青々とした若木は、伸びやかに上昇を希求した。

そしてまた、 挑む

種蒔く人

二十四で珍味屋を初め、四十を前にして、悩んだ。人生に、経営に、悩んだ。

己ひとりの幸だけでなく、社員の生活を想った。珍味屋だけじゃ、社員を食わせていけない。

懊悩の末、新しい種を蒔いた。「喜多方ラーメン」という種。

当時、この地元の産品は、東京では無名だった。売れなかった。都会のバッタ屋にも引っ掛かった。

それでも、挑み、挑み、そしてまた、挑んだ

五年が経った―ひとつの事業が、成っていた。

会津を誇る

地域愛、そのさきがけ

会津には「こづゆ」という郷土料理がある。

慶事の際に、各家庭で作られる、貝柱の出汁をベースとした、具沢山の醤油汁。

当時、「こづゆ」のような郷土料理は、単なる家庭料理と卑下され、外に出すものではないとされていた。

しかし、小野木社長は、愧じずに胸を張った。これが会津の、おれたちの、郷土料理だと、誇った

そうして、「こづゆ」を世に出した。今から、二十年前の話だ。

みちしるべ

四者の幸せのために

今から十一年前、「武者煎餅」を任せたいという話が舞い込んできた。

不況の煽りで一時期、店頭から姿を消していた、会津の伝統ある銘菓。

受けるべきか、断るべきか―。

その時、判断の決め手となったのが、いつも我が身と共にあった、一冊の黒い手帳だった。

その中には、自分の経営人生の、その道程で、大切に耕し続けてきた、心田があった、理念があった。

会津の食文化の伝承と創造を通して、四者満足、つまり、お客様、社員、経営者、地域社会の幸せを目指す。

その経営理念をじつと見つめた。―受ける、と決めた。

会津に託され、 感謝され

うれし泣き

「武者煎餅」は多くの賛同者を得て、復刻された。

会津への恩返し―、その真率な想いが、人を動かした。奮わせた。

―我が子のように可愛がってきた焼成機だ、どうか活かしてほしい。

前の製菓会社の職員は、そう言って社長の手を強く握った。

一度は「武者煎餅」の火を絶やしかけたその無念。それを、一縷の望みに変えて、「オノギ食品」に、託した。

―ありがとう、本当にありがとう。

「武者煎餅」を長年愛してきた方たちからは、飾りのない喜びの声が、次々と寄せられた。

ものを売って感謝される。それが、嬉しくて、涙が流れた。

上を向いて挑もう

幸せになるために

会津の土地に、今なお底流し続ける、先の震災の爪痕。

それに向き合う時、多くの人は下を向き、あるいは、こわばる。

しかし、小野木社長に、変な力みはない。

―原発でも何でも、起きた現象はみんな同じだ。しゅーんとしねで、挑戦していかねえと。

時代はいつでも変化していく。そして、原発も、その変化のひとつなのだ。

変化のひとつである以上、それを悲観するか否かは、ただ、受容する人間の認識に委ねられる

そして、小野木社長は、上を向いた。

―人間、幸せになるために生まれてきたんだ。がんばっぺ、がんばっぺ。

その発想は、常に、健やかでシンプルだ。

会津の地に凛として立ち、その視線、真っ直ぐ上に、澄明に。

会津のほんもの

次に伝える、やさしい恩送り

会津人が会津のものを使い、会津の伝統的な方法に依って、正直に、誠実に作る。

産品の背景に、そのような豊かな「物語り」が息づいて、初めて、その産品に、揺るぎない背骨が形成される。

そうして、ほんものに、成る。

そのほんものを正しく伝承していくことが、おれの会津への恩返しなんだべな。

地域に生かされてきた、その深い自覚が、会津という郷里への、裏表のない健やかな愛情として、ここに、大きく実った。

会津のほんものを、次の世代へと繋げていく、やさしい、正の循環。恩送り。

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