震災を乗り越える
地産地消と言う以上、
原発事故と放射能の問題は避けて通れない。
ここ裏磐梯では、線量の上昇もほとんど見られなかったが、
あの事故以来、客足はガクンと落ちた。
風評の恐ろしさだ。
「この地域では普通に食べて、普通に暮らしているのに、
というくやしさは、確かにあります」
と小椋シェフは言う。
一方で、見えない物ゆえの不安も理解できる。
だから小椋シェフは、菜園や敷地内の線量を、自分で計る。
「安全が確認された地元の素材を使い、
美味しい物を作ってお出しする。
その当たり前の努力を続けていくこと。
普通に、ごく普通にぼくらがやっていくことが、
結局は、安心につながるんじゃないかと」
訥々(とつとつ)とそう語る小椋シェフの口調には、
イタリア料理のシェフとしての矜持(きょうじ)と、
故郷を愛する会津人の矜持が、
見事に融け合っている―。